徳島で郷土料理と聞くと何を思い浮かべますか?
実際に口にしたことがあるかというと、食べたことがないものもたくさんあるのではないでしょうか?または意識していないだけで、日常的に家庭の食卓に並んでいたのが郷土料理だったのかもしれないですね。
どんな歴史があって生まれた料理なのか、どんな風に作られてきたのか、知ってみたら、より徳島の郷土料理を食べるのが楽しくなるかもしれませんよ♪
地元の食文化を守り続けているお店に話を伺いました!
★他にもあります、作り手が語る徳島郷土の味シリーズ
・《奥祖谷めんめ塾/三好市東祖谷》作り手が語る徳島郷土の味
・《杉の娘/那賀郡那賀町》作り手が語る徳島郷土の味
民宿 うり坊/三好郡東みよし町
山村の知恵が生んだ保存食
東みよし町の山の傾斜地に位置する『民宿 うり坊』。オーナーの木下さんはハンターでもあり、自身が獲ったイノシシやシカを加工処理し、見事な料理でもてなしてくれることでも有名な宿です。
▲『民宿うり坊』で味わえる[ジビエのフルコース]。宿泊せず、料理だけをいただくなら1 名4,000 円〜(要事前予約)。イノシシ肉しゃぶしゃぶやイノシシ・シカのハンバーグなど、どれを食べても間違いなしのおいしさ。
見回せば、そこら中に保存食
庭を見まわしただけでも、軒先には柿が吊るされ、シイタケが天日干しされています。
また、ひんやりとした倉庫では樽に入ったぬか漬けやらっきょ漬け。発酵のなんともいい香りが漂っていて、「ここは保存食の宝庫だ!」とひとつみつけるたびに心が躍ります◎
▲食べごろとなった干し柿。風情がある景色。
▲シイタケのほか、大根やゼンマイ、芋の干し物も見せてくれた。
こんなものまで手作りで!?
「今ほど交通の便が良くなくて自動車もなかったころ、物流に制限があったけん山の生活は自給自足だった。昔から作っているものを、今も変わらず作り続けとんよ」と木下さん。
しかし、なんでもスーパーマーケットで手に入る世代が見ると、「こんなものまで作るの!?」と驚かれることもしばしばあります。
▲「今でこそシカも食べるけど、昔はウサギ・キジ・の鍋がごちそうだった」と話すオーナーの木下さん。
中四国で初めて世界農業遺産に登録されたこの地域は、豊かな自然環境や寒暖差により良質な野菜が育ちます。収穫してすぐの野菜を、干したり漬物にしたり、旬を閉じ込めるため当たり前のように保存する。
傾斜地では水は貯まらず水田はないので、米はとれず雑穀が豊富だった。
▲みそは毎年仕込み、樽で3 年寝かす。
みそに関しても、米みそではなく麦みそが主流。『うり坊』では麦の赤みそを作っており、徳島の郷土料理である〝ゆずみそ〟にもこれを使っています。赤みそだとコクが増し、手作りのこんにゃくと相性抜群!
▲ぬか漬け大根はとうがらしを入れて、ピリリと。
これでもかとボリューム満点な料理を!
「私の母の時代、カサ一本をお金では売ってもらえなくって、保存食として作ったものをいっぱい持ち、物々交換でやっと手に入れたと聞いた」と話す木下さん。ここに暮らす人々にとって、保存食というのは現金にも勝る価値があった。そして、今もそのスピリットは受け継がれています。
「昔は自動車なんてなかったし、道も今ほど良くなかったから、こんなところまで来てくれたとお客には食べきれないほどの料理を振る舞った」と木下さん。それもあって、『うり坊』でいただく料理はこれでもかとボリューム満点。そして、今回紹介したような保存食が端々にまで生かされていて、「これは何?」「作り方は?」と尋ねたくなるものばかりです。
※この記事は、2020年GEEN3月号で掲載した内容です。